陶芸作品が完成するまでに必要な制作工程。6 steps we should know through making works of pottery. Part 2 (後半)

こんにちは!atelier kotarouの柳田です。前回の記事では“陶芸作品が完成するまでに必要な制作工程。6 steps we should know through making works of pottery.”の前半の①:成形→②:乾燥→③:素焼き焼成のステップを説明致しました。今回はその後半に当たる④:(絵付け・施釉)→⑤本焼き→⑥完成のステップをそれぞれ詳述していきたいと思いますので、最後まで是非お付き合い頂けますと幸いです。^^

④:絵付け・施釉(1:絵付け:③で素焼きした作品に下絵具で彩色する)

作品を窯で素焼き(約700~800℃)することにより、初めて作品に彩色をすることができるようになります。皆様陶芸の器や置物といったものに色が描かれているのをご覧になったことがあると思います。あれは実は釉薬(下絵付けした素焼きの作品の上から釉薬を掛け、約1220~1250℃で作品を焼く本焼き焼成を行えば作品の完成です!)の下に、陶芸用の“下絵具”(陶芸用品コーナーで市販されています)で素焼きの器に直接色付けされているものが透明な釉薬の下に透けて見えているのものなのです。ちなみにですが、釉薬の層の下に下絵具で素焼き作品に直接彩色することを「下絵付け」、一方施釉、本焼き焼成の後釉薬の上から“上絵の具”というもので彩色し、およそ900℃で再び焼成する方法の際の絵付けを「上絵付け」と言います。つまり絵付けを“釉薬の下からするのか、それとも上からするのかの違い”ということですね。ここでは下絵付けについ詳述致します。

実は、陶芸の下絵付けはとっても簡単にできるものなので、皆様是非楽しみながら行ってくださいね!^^上述した下絵具を、いわゆる水彩画を描く時の要領で水で溶いていただき、後は素焼きの作品の上から自由に彩色をするだけです!感覚としては、普通の水彩画では水彩絵の具で画用紙の上に色を描くのに対して、ただ単に同じ要領で下絵具で素焼き作品の表面上(素焼き生地といいます)に色を描くといったものです。そのため水彩画の彩色同様色彩の微妙な濃淡や、また絵具を濃く溶くことによって強い色や線を描くこともできます。下絵具でサインなどを書くこともできますよ。^^そして下絵付けの最大かつ最強の魅力は、一度下絵付けし、その上から施釉し本焼き焼成すればその釉薬の層の下の絵付けの彩色は釉薬のガラス層(釉薬は本焼き焼成することによって頑丈な硝子の層に変化します。これがいわゆる焼き物の表面のつるつるした層の正体です。)にしっかりコーテイングされ守られることによって、作品そのものが破損するなどして損なわれない限りにおいて半永久的に、何万年でも何億年でも色一変わることなく残り続けることです。一方上絵付した上絵の具は例えば作品の使用を繰り返すうちに徐々にその絵付けしたものが剥がれていってしまいます。これもひとえに“絵付けされたものが釉薬の下か上か”の違いによるのです。次はいよいよ本焼き焼成前の最後の工程の「施釉」(釉薬を素焼きの作品の上からコーテイングすること)を行います。

④絵付け・施釉(2:施釉:“④:1:絵付け”で下絵具で彩色した作品に釉薬を掛ける)

次の工程は作品を焼き上げる前の最後の手仕事になる「施釉」(素焼き作品に釉薬を掛ける)の工程になります。そもそも釉薬というものはどのようにして陶工たちに用いられ始めたのでしょうか?現在伝わっている一番有力な釉薬の起源としては、いわゆる“自然釉の発見”が挙げられます。前回記事にも書かせて頂きましたが、昔は焼き物の焼成は穴窯や登り窯等で行われており、その際には種々の薪を窯にくべて焼成が行われていました。ある時一人の陶工が、焼き終わった後の窯の中から、ガラス質の光沢を伴った焼き物を発見したそうです。よくよく調べてみると、その硝子質の層の正体は、焼成の際にくべた薪の灰が焼成時に生ずる上昇気流(登り窯はこの上昇気流が生じる現象を利用して何室にも別れた窯の部屋の中の作品を一度に焼成します)に乗って上昇し、その灰が焼き物の上に降りかかり(これを“自然降灰”といいます)、そのまま高温で焼かれ、温度の下降(自然降温といいます)の際に硝子質に変化したものであったことが明らかになったのです。この自然降灰こそがいわゆる「自然釉」と呼ばれるものになります。つまりまとめますと、我々が普段何気なく使っている“釉薬”というのは、元々は“素焼きの生地に乗った灰が高温で焼かれた後冷やされガラス化したもの”だったのです。今現代でもこの自然釉の技法にこだわって制作を続けてらっしゃる作家の方々がいらっしゃいます。前回記事にも書かれているように当然日夜交代制で何日も徹夜で窯の守をしなければなりません。

今は様々な釉薬が人工的に開発され、基本的にはこの泥状の釉薬の中に素焼きの作品を漬けたり(漬け掛けといいます)、流しかけたり(流し掛け)といった方法で素焼きの作品の上にこの泥状の釉薬をコーテイングする技法が現在広く用いられています。漬け、流し掛けそれぞれ説明致しますと、

「漬け掛け」: 素焼きした作品を泥状の釉薬に漬けて施釉する方法。施釉時間(釉薬の中に素焼き作品を漬けている時間)は最短で3秒~最長で5秒程度。長く漬ければそれだけ施釉厚(コーテイングされた釉薬の層の厚さ)は厚くなり、また、施釉回数を繰り返せばそれだけ施釉厚は厚くなります。この漬け掛けを用いる際に気を付けて頂きたい事は、あまりにも施釉厚が厚くなりすぎると、本焼き焼成の際に下の素焼きの生地が釉薬の膨張(釉薬は焼成時に体積が大きくなります)に引っ張られ、ひび割れを生じてしまう可能性があります。また、厚くなりすぎた釉薬の中に含まれた水分が逃げ場を失い焼成中に水蒸気爆発を起こすリスクもあります。そのため、施釉厚が極端に厚くなりすぎることを避けるようにしてください。厚くなりすぎた施釉厚の調整は、水を含ませたスポンジ等で厚くなりすぎた釉薬を拭き取れば、まだ焼成前の泥(灰)の状態ですので施釉厚を薄く調整することができます。加えてそれよりも気を付けて頂きたい点は、スポンジで釉薬を拭き取る際に拭き取りすぎてしまった結果折角下絵付けの工程で絵付けした下絵具までをも拭き取ってしまい当然絵付けの絵柄も消えてしまいますので、注意して拭き取り作業を行って下さい。補足になりますが、作品の施釉厚が厚くなるのは施釉時間、及び回数といったことだけではなく、漬ける釉薬そのものの濃さ(濃度)が濃ければ当然厚く施釉されることになります。また、施釉厚、施釉する釉薬の濃度はそれぞれの種類の釉薬によっても異なりますので、施釉厚、施釉時間等は個別に考えて下さい。

「流し掛け」: 素焼きした作品に泥状の釉薬を流し掛け施釉する方法。この方法は主に柄杓等に釉薬を入れたものを素焼きの作品に流し掛ける方法です。この方法は例えば釉薬を作品の一部分だけに掛けたい場合や、釉薬の入った桶に入りきらないような大きな作品の施釉に用いられます。また、この流し掛けは上述の“漬け掛け”よりも釉薬は濃く(厚く)掛かります。また、これら漬け掛け・流し掛けの他に、釉薬を浸み込ませた太めの筆で素焼き生地に釉薬を絵付け感覚で方法もあります。釉薬が掛からなかった部分を部分的に施釉するのもこの筆で行えますし、また、指先に多めに釉薬を付けてその未施釉生地部分に釉薬を乗せてあげれます。

※最後に、上記の方法等で施釉し終わった作品の底についた釉薬は最後必ずスポンジ等で拭き取って下さい。そうしないと施釉した作品を窯で本焼き焼成する際に、作品の底の釉薬が窯の棚板(窯での作品の焼成時に作品を乗せる板のこと)と釉着(高温で溶けた後固まった釉薬によって物と物同士がくっついてしまうこと)してしまい、最悪作品自体を壊して棚板から取り除かなければならなくなります。また、焼成時に釉薬は体積が膨張することに加えて、丁度熱せられ柔らかくなった飴のような状態になるため、少し重力で下に垂れます。そのため、作品底の釉薬をふき取る際は側から2~3㎜(織部釉や鉄釉、灰釉はかなり垂れるので、作品下に素焼きの煎餅(釉薬が下に流れた際の釉薬の受け皿として使います)を敷いて下さい。)の余裕を持って拭き取って下さい。

⑤:本焼き焼成(④で施釉した作品を窯で約1220~1250℃で焼成する)

いよいよ制作工程の最後のステップ⑤:本焼きです。ステップ④で釉薬を掛けた作品を窯で約1220~1250℃の高温で焼成します。この本焼き焼成の際の注意点も基本的には前回記事“③:素焼き”のステップと重複するところが多いのですが、この本焼き焼成のステップの方が注意点が多いので、これから詳述致しますね。

本焼き焼成には「酸化焼成」と「還元焼成」がある。:本焼き焼成には素焼き焼成とは違い、大きく分けて“酸化焼成”と“還元焼成”の二つの焼成方法があります。酸化焼成とは本焼き焼成をする際に作品の周りの空気に十分な酸素が満ちている状態(これを酸化雰囲気といいます)で行う焼成方法を言い、それに対して“還元焼成”とは、作品の周りの空気に十分な酸素が不足している、つまりは所謂酸欠状態(これを還元雰囲気といいます)で行う焼成方法のことを言います。さらに詳しく両者の違いを説明致しますと、酸化焼成の際には焼成中に作品の周りの空気中に含まれる酸素が作品と結合するのに対し、還元焼成ではこれとは逆に酸欠状態である作品の周りの空気が、元々作品内に含まれていた酸素を酸欠故に奪い去ってしまうのです。窯の中の空気の温度が上昇するためには当然酸素を必要としますので、このような現象が起こるのです。電気窯においては基本的には安定した酸化焼成を行うのが向いていると言われ、還元焼成はガス窯が安定した還元雰囲気を保ちながら焼成を行えると言われています。電気窯においてももちろん還元雰囲気を炉内に作り出して還元焼成を行うことは十分可能なのですが、そのためには電気窯にはガスバーナーを追加で設置して還元雰囲気(バーナーの炎が燃焼するためには酸素が必要ですので当然酸欠状態になります)を作り出す必要があります。しかしながら、電気窯での還元焼成はあまりお勧めすることはできません。何故なら、還元雰囲気を繰り返し電気窯の炉内で作り出す結果、炉内の熱線前回記事③:素焼きのステップで詳述しています。)の劣化の速度が通常の酸化焼成の場合よりも早く進んでしまう、つまり傷みのスピードを速めてしまうからです。そのため、もし還元焼成をメインで行う場合はガス窯で行う方がいいかもしれません。補足ですが、所謂、白磁に鮮やかな青色が美しい「染め付け」の技法を用いた作品は、還元焼成行うことによってあの鮮やかな青色が発色しているのです。もし同じ作品を酸化焼成で焼成した場合は、あの鮮やかな青色ではなく全体的にくすんだ色味になってしまいます。最終的に作品にどのような表情・表現を出したいかによっても、これらの焼成方法を使い分けることになります。

※釉薬を掛けた作品同士が窯の中で絶対に接しないようにする。:これはなぜかというと、「④:2:施釉」の項でも述べた“釉着”を作品同士で起こさせないためです。高温での本焼き焼成の際に、コーテイングされた釉薬は溶けた飴状になり体積が膨張します。そのため、本焼き焼成で作品をたくさん窯詰めする際には作品同士で出来れば5㎜程度はそれぞれ隙間を空けて窯詰めしてください。もし仮に作品同士が窯の中で釉着してしまうと後で作品同士を引き離すのはまず難しいと思って下さい。また、作品同士の釉着を気を付けるのと同様に棚板を何段かに組む際に用いる※支柱や炉内の熱線にも決して施釉された作品の施釉部が接していないことを焼成開始前に必ず確認してから焼成を開始して下さい。もし熱線に釉薬が付着、もしくは接している状態で焼成を行ってしまうと※熱線が断線してしまいます。危険ですのでこの点くれぐれもご留意下さい。補足ですが、“ステップ③:素焼き”の際には特にこの作品同士が接しているかどうかは気にする必要はありません。また、同じ1220~1250℃で行う本焼き焼成でも所謂“焼き締め”(素焼きした作品に釉薬を掛けずにそのまま本焼き焼成すること)をする際には作品には釉薬が掛かっていないため当然釉着を心配する必要はありません。しかしながら、この様な釉着を考慮する必要がない焼成であっても、例えば極端に作品同士を密に重ね合わせたり、大型の作品等で作品の表面の広い面積部に十分に空気が入り込まない状態があると最悪焼成時に作品が割れてしまいます。これは作品に焼成時に十分な熱が伝わらないことと、空気が逃げ道を失ったことによって起こる割れになります。ですので、作品を沢山重ねて焼成する場合にはなるべく作品同士の間に空気の逃げ道、スペースを確保する方法で行ってください。これは例えば窯用の小さなブロック等を用いて作品同士に隙間を作る方法などで改善できます。

また、本焼き焼成の所要時間は約36時間と把握して頂いて構いませんが、素焼き焼成よりも高温(約1220~1250℃)での焼成になりますので、当然炉内が最高温度に達した後作品を窯出し出来るまでの自然降温に素焼き焼成の時よりも時間が掛かります。ちなみに、作品表面の釉薬のガラス質はこの最後の自然降温の過程で、高温で溶けた飴状の釉薬が冷え固まることによってガラス化したものになります。そして前回記事“③:素焼き”の項で窯の蒸気柱閉じの必要性を述べましたが、この本焼き焼成の際にも全く同様に蒸気栓を閉じて頂く必要があります(電気窯等の場合)。“冷め割れ”してしまうからです。この蒸気栓閉じは素焼き焼成の際には焼成開始から約3時間後でしたが、今回の“⑤本焼き”では窯の炉内の温度が素焼き焼成の際よりも早く作品の蒸気抜き終了目安温度(約200~300℃)に達するため、素焼きの時よりも早い約1時間30分後に柱を閉じてください。この柱閉じを行った後は焼成終了を待つだけです。作品の焼き上がりが楽しみですね!^^

⑥:完成(⑤で本焼き焼成した作品を窯出しする)

本焼き焼成終了後は③:素焼きの際と同様に注意し、窯の炉内が作品を取り出しても安全な温度に下がってから窯出しの作業を行って下さい。この最後の窯出しの時の作品の状態が、皆さんが所謂完成品として普段目にしている陶芸の作品になります。作品を窯から取り出した後炉内の棚板、支柱(2段以上棚板を組んで作品を焼成した場合)、サイコロ(陶芸窯用のブロック)等を取り出し、炉内が常温になったら最後に掃除機等で炉内をきれいに掃除してください。この掃除の際に特に電気熱線を念入りに掃除機がけして下さい。熱線に釉薬や粘土カスが残っていると熱線の断線の原因になります。

これで“陶芸作品が完成するまでに必要な制作工程。6 steps we should know through making works of pottery.”の6ステップ全ての説明終了になります。ここまで説明させて頂くのになるべく最低限必要なエッセンスだけを述べるよう努めて今回主旨記事をpart 1(前半), part 2(後半)の二回に分けて書かせて頂きました。しかしながら、結果としてかなりの長文、そして駄文記事なってしまったこと、ここにお詫び申し上げます。最後までこの記事を辛抱強く読んで下さった読者の皆様にこの場をお借りして深く感謝申し上げます。最後までお付き合い賜り、誠に有難う御座います。

今後とも当atelier kotarouは皆様の暮らしと気持ちを少しでも明るく、そして豊かなものにするお手伝いをさせて頂くべく日々何かその様な有益なものを作品、ウェブサイト等を通して皆様に提供させて頂ければ幸いで御座います。

今後とも、当atelier kotarou及び彫刻家柳田憲児を何卒宜しくお願い申し上げます。  柳田

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